江戸時代から伝わる庶民の風習
「花嫁のれん」とは婚礼に用いられる特別な「のれん」で、
石川県を中心とした能登・加賀・越中に伝わる江戸時代を起源とする風習のひとつです。
この地域の花嫁は、嫁入りの当日に玄関先で実家と嫁ぎ先の水を
半分ずつ混ぜて飲み干し、実家の紋を入れた花嫁のれんを
嫁ぎ先の仏間の入り口にかけるという習わしがありました。
そして、嫁ぎ先の仏前で手を合わせご先祖様に「どうぞよろしくお願いします」とお参りしてから結婚式が始まります。
この花嫁のれんは、たった一度しか使用しないのに贅を尽くして作られていました。
鶴亀や松竹梅といった縁起が良く祝福の気持ちを表したものや、故郷を忘れないようにと
その景色を描いたもの、夫婦円満の象徴であるおしどりを描いたものなど、その模様は多岐に亘ります。
家紋や色の出し方が異なるなど1枚として同じものはないと言われていますが、
その理由は言葉で伝えきれない親の思いが込められていることによります。
ただ、結婚式当日、婚家に出向く花嫁の両親が、その場に立ち会うことはありませんでした。
「どうか結婚式を晴れやかに迎えられますように。娘がこの先ずっと幸せでありますように」
という願いを込めて準備する時間は親にとって重要で、子離れの覚悟を決めるのに必要な時間だったのかもしれません。
百数十枚が展示される花嫁のれん展
結婚式後ののれんは嫁ぎ先の仏間にかけられていましたが、それを商家や民家などの屋内に
百数十枚展示するイベントが花嫁のれん展で、2004年に初めて開催されました。
このイベントは、一本杉通り振興会の5人女将さんの発案から誕生しました。
この5人の女将さんたちが取材で訪れたある雑誌記者を石崎奉燈祭に案内したところ、
とある家の中に飾ってあった「のれん」を見たその記者から、「あなたたちには、美しいのれんがあるじゃない」と言われました。
それまであまり意識をしていませんでしたが、そのとき5人の女将さんたちは
その魅力に改めて気づかされたのです。そこで、それまでは押し入れに仕舞い込んであった
「花嫁のれん」を持ちより、一本杉通りに飾って観光客にも見てもらおう決め、
翌年の2004年にそれぞれが持ち込んだ56枚ののれんを飾り、第1回花嫁のれん展を開催したのが始まりです。
現在では、色や柄が一枚一枚異なる花嫁のれんが、百数十枚も飾られて街中を美しく彩る人気のイベントとなっています。
石川県を訪れた際は、親から大切な娘に託した想いを感じ取るとともに、
鮮やかな模様に秘められた物語を聞きに、是非一度足を運んでみてはいかがでしょうか。